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柔軟な感性でアート系作品をセレクト
恩田 泰子
映画記者(読売新聞)
Winny
23/3/10(金)
TOHOシネマズ日比谷
大事なことを映画で、しっかりと、しかも面白く見せるのは容易なことではないけれど、「Winny事件」とは何だったのかを描いた本作は、それを実現させている。Winnyは、2000年代初めに公開されたファイル共有ソフト。そのユーザーが、著作権を無視して映画・音楽・ゲームなどをやり取りするケースが続発し、開発者・金子勇は「著作権法違反幇助」容疑で逮捕された。映画は、金子と弁護団による裁判闘争を軸に進んでいく。技術的なこと、裁判のこと、本筋の話に絡むもう一つの「事件」のことと、盛りだくさん。ともすればややこしくなってしまいかねないところだが、脚本は勘どころをしっかり押さえて、観客を迷子にさせない。人間群像、金子という天才の肖像、そして何より、「出る杭」を打ってきた日本という国のありようを問い直す映画としてずしりと来る。金子という天才を演じる東出昌大の浮世離れぶり、三浦貴大をはじめとする弁護団の仕事人ぶりもいい。成田三樹夫ばりにクールな吹越満など役者にしびれる楽しみもある。こういう社会派エンタメが増えれば、日本映画界も日本ももっと面白くなると思う。劇中、実際の固有名詞がちゃんと出てくるのにも、作り手の本気度を感じた。新聞は御多分に漏れず「毎朝新聞」が幅をきかせていたけれど。
23/3/13(月)