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春日 太一
映画史・時代劇研究家
マッシブ・タレント
23/3/24(金)
新宿ピカデリー
困り顔だったり、呆けた顔だったり……ニコラス・ケイジの情けない表情は、たまらなくチャーミングだ。本作は、そんなニコラス・ケイジの魅力を心ゆくまで堪能できる。 彼が演じるのは落ち目の映画スター、その名も「ニコラス・ケイジ」。名前も設定もズバリそのもので、フィルモグラフィも同じなのだが、フィクショナルな部分も混じった「そういう役柄」でもある。文字にすると虚実が入り乱れて複雑に思えるかもしれないが、開き直ったように自虐的なセルフパロディに全力で挑む姿に触れているうちに、全く気にならなくなる。 物語としては、仕事の依頼でスペインを訪れた「ニコラス・ケイジ」が国際的な犯罪に巻き込まれるアクションコメディ。スパイとしての役割を無理矢理に任され、ひたすら困り果てる様が最高だ。 『ワイルド・アット・ハート』『コン・エアー』『ザ・ロック』『フェイス/オフ』『コレリ大尉のマンドリン』など、過去の出演作へのオマージュを次々と挟みつつ、徹底したニコラス・ケイジ愛、さらには映画愛が全編を貫く。情けない顔をしていたかと思えば、急にカッコよく様変わりするところなど、作り手がニコラス・ケイジの魅力を熟知していることが伝わってきた。 ペドロ・パスカルの演じる異様なまでのニコラス・ケイジのファンとのイチャイチャぶりも微笑ましく、最後の大団円に至るまで温かい多幸感に満ちた作品。観劇後はニコラス・ケイジの過去作はもちろん、彼と無関係の『パディントン2』もなぜだか観たくなる。
23/3/24(金)