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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

ノートルダム 炎の大聖堂

不謹慎だが、面白い。映画は戦争だって再現してしまうのだから、火事くらい、簡単に再現できてしまう。 あの火事をニュースで見たときは、「映画みたい」と思ったが、あの日にテレビやネットに流れていた、パリの人々がスマートフォンなどで撮った映像がふんだんに使われている。 そのため、大聖堂が燃えている外景は、CGなどではなく当日に撮られた本物。 内部は原寸大に再現したセットで撮られ、消火活動を俳優が演じていく。そのつなぎかたが見事なので、「全てがドキュメンタリー」のようでもあり、「全てがフィクション」のようでもある。 消防の初動に問題があったと指摘されていたが、その事情がよく分かる。大聖堂内部にいる人たちは、火事だと気づかない。外にいる人たちは煙が出ているので火事だと気付くが、まず、スマホで写真を撮る。携帯電話を持っているのに、誰も通報しないのだ。普通の家が燃えていれば、「火事だ」と通報するだろうけど、あんな大きくて有名な建物が燃えていると、誰かが通報しているだろうと思ってしまうものなのだろう。それが現代社会。 消防の幹部にも、大聖堂から煙が出ている映像が知人から送られてくるが、第一声は「合成だろう」で、信用しない。これも、現代社会を象徴する。 消防や大聖堂の人たちを俳優が演じていて、それぞれのキャラクターはある。だが、私生活やそれまでのキャリアなど、その人間像にはほとんど踏み込まない。つまり、消火活動と文化財の救出という目的遂行のために動く人々の姿しか、この映画にはない。といって、人間ドラマがないわけではない。ひたすら「仕事をする人々」を描き、それぞれの性格も分かってくる。 徹底したリサーチ、計算され尽くしたシナリオ、緻密なセット、俳優のナチュラルな演技、卓越したカメラワーク、テンポのいい編集といった、あらゆる映画テクニックが駆使されている。音楽の使い方もうまい。 現実と虚構を融合させた、新たなタイプの映画。

23/4/8(土)

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