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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

さばかれえぬ私へ Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展

中堅アーティストを対象とした現代美術賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」第3回受賞者、志賀理江子と竹内公太の受賞記念展。2名の個展形式のところ、宮城に住む志賀と福島に住む竹内が、東日本大震災を巡る対話を通じて「さばかれえぬ私へ」というタイトルを共作。個展であり、ふたりでひとつの展覧会でもある構成となった。 志賀は、吹き付ける風と闇のなか防波堤を歩くビデオインスタレーション《風の吹くとき》、(ある人が山上に運んだ)重機が積まれた風景写真や土嚢袋などを用いた空間《あの夜のつながるところ》を作りあげた。土地に住む人々の記憶とともに、「復興」の名の下に住民を圧倒した国家や巨大資本による支配と搾取の構造が、都市生活と地続きにあることを想起させる。 一方、竹内は、第二次世界大戦末期に日本軍がアメリカ本土に向けて空に放った風船爆弾をリサーチ。米国公立公文書館の記録をもとに、福島県いわき市からワシントン州東南部の核施設群「ハンフォード・サイト」にも放たれていたことがわかり、現地で落下地点を探して撮影した写真や映像作品などを発表している。「ハンフォード・サイト」は長崎原爆のプルトニウムを精製した場所でもあるが、この地の浄化活動や再開発は「福島イノベーション構想」のモデルになっている。このことはウェブで調べられるが、あまり周知されていないのではないだろうか。展覧会場には、300枚の風船爆弾の落下地点の写真でできた実物大の風船爆弾のインスタレーション《地面のためいき》が出現。呼吸するかのように膨張し、収縮する光景にも圧倒される。 いずれも自分の体を媒介として過去と現在、現実と想像を行き交うような作品だ。震災後の2013年、いわき市湯本の古い劇場を解体する様子を撮影した、竹内の映像インスタレーション《三凾座の解体》ではぜひ椅子に座って鑑賞してほしい。

23/5/9(火)

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