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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

TAR/ター

演技力では群を抜く実力派であり、華がある女優というより俳優という言葉を使いたいケイト・ブランシェット。彼女の演技を存分に味わいながらその吸引力に圧倒され、目を背けられず一気にラストまで誘われてしまう映画『TAR/ター』。なんとも恐ろしい物語であり、この映画が日本で公開されることに戸惑いを隠せないのも事実。というのもまだ同性愛に対して寛容ではない一部の人々のせいで同性婚も認められていない日本の人々は、この題材をどう捉えるのだろうか。トッド・フィールドが出演を切望したケイト・ブランシェットが主演だからレズビアンの権力者にしたのか? それとも現代にあえて波風を立てるためにこの設定にしたのか?  とにかく長回しによるケイト・ブランシェット演じる主人公リディア・ターの狂気的なパワハラシーンはモンスター以外の何者でもない。確かにこの主人公が男性だったら“権力に溺れた天才の物語”というありがちな物語かもしれない。けれどリディアという人気指揮者が事実、過敏な聴覚で音を聞き分け、それでいて神経質なまでにテンポにこだわる性質を、ケイトの演技だけでなく音やカメラワークで静かに辿っていく描写は、トッド・フィールド監督が「天才と奇人は紙一重」だと捉えているようで面白い。今年、ミシェル・ヨーがノミネートされていなかったらアカデミー賞はケイトだったかもしれない。そして頭からしばらく離れない。

23/5/9(火)

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