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平辻 哲也

映画ジャーナリスト

怪物

2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドールに輝いた是枝裕和監督。最高峰に上り詰めてしまった巨匠は悩みを抱えていたと想像する。 『万引き家族』の上を行くのは、簡単なことではない。カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『真実』、ソン・ガンホ主演の『ベイビー・ブローカー』では海外で腕試しし、その結果も出した。その次の一手がこの『怪物』だ。これまで、ほとんどの作品の脚本を書いてきたが、脚本には映画『花束みたいな恋をした』やドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の坂元裕二、音楽には坂本龍一と、ふたりのサカモトと初タッグを組んだ。 坂元脚本は、芥川龍之介原作の黒澤明監督の『羅生門』の物語手法。あるイジメ事件を、母親、子供、教師側の目線で描き、「怪物」とは何か、何を持って「怪物」なのかをあぶり出す。坂元裕二は、是枝作品に寄せたような中身を書き、是枝監督も、子役には台本を渡さないという是枝流を封印。互いにリスペクトしながら、新たな子どもたちの物語を紡いだ。是枝作品の新たな可能性を感じさせる。

23/5/29(月)

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