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水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

渇水

困窮して水道代が支払えなくなった家の幼い姉妹と、給水停止措置を任務とする水道局職員の物語。物語の舞台になっている前橋の夏は猛烈に暑いので有名で、干からびた乾燥ぶりが作品内でも嫌というほど描かれている。分水嶺に近い群馬のこのあたりは、北から日本海で水分を落としてきた強く熱い風が吹き降りてくる。南からも熱い風が吹き寄せ、熱い風と熱い風が衝突して、猛烈に暑く乾燥するのだ。それなのに水道は停止され、幼い姉妹は街をさまよって公園の水道で水を求め、節水で公園でさえも水が使えなくなると、他人の家に忍び込んで庭の水道を使おうとする。 生田斗真演じる水道局職員は、幼い姉妹を助けることもできず、自分の家族ともうまく行かない。思いをこじらせて、ある日山道へとクルマを走らせる。干からびた街とは打って変わって、森はみずみずしく、橋の下にはさらさらと清流が流れている。彼は靴もズボンも濡らしながら流れの中を歩き、そして滝へとたどり着く。このシーンが見事である。乾いて絶望しかない街と、あまりにも豊かで美しい滝。この対比に、本作のあらゆる思いが籠もっているように感じた。ラストの驚くような意外な展開は、このシーンがあるからこそ成立しているのだ。傑作。

23/5/31(水)

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