歌唱で願いを叶えるという題材は王道であるものの、やはり何度見ても心震え、涙腺が緩む。本作は出前の仕事をするラッパーの青年が、オペラ座に寿司のデリバリーをしたのをきっかけに声量と歌声を見染められ、オペラ歌手を目指すという内容だが、生きる世界の違う青年が身の上を理解しながらチャンスを掴むかに葛藤する姿が新鮮だ。しかも主人公を演じるMB14は実際もラッパーであり、ラップバトルとオペラの歌唱シーンのギャップにも魅了されてしまうチャーミングなキャラクターだった。 オペラ初心者でも知っているであろうプッチーニの「蝶々夫人」やヴェルディの「椿姫」など、映画から圧倒的な歌の力を浴びて伝統的な建造物であるオペラ座の煌びやかな世界に身を委ねつつ、現代のパリの裏側とそこで生きる若者というギャップがまた象徴的。二種類のエンタテインメントを融合させたサクセスストーリーは、爽快感も見心地も抜群だ。

23/6/3(土)