若い父親と離れて暮らしてはいるけれど仲の良い幼い娘が、トルコのリゾート地で過ごした夏。リニアに描いてもエモい映画になりそうな題材を、シャーロット・ウェルズ監督はいくつかの映像的なからくりを使って描き出しました。父娘が過ごす時間を光とともに切り取った35ミリフィルム、ざらついたホームビデオの映像。そして、『TAR／ター』でもオマージュが捧げられているシャンタル・アケルマンに影響されたという、終盤の360度のカメラワークが過去と現在を繋ぎ、この映画が今を生きる娘の視点で描かれていることが鮮やかに伝わってきます。 エモい映画は情感に流されるのではなく、緻密で理知的な構成から生まれるのだなと改めて感じました。記録にはすべてが映し出されるわけではなく、人の記憶は曖昧な部分を埋めようとする想像力や後付けの思考によって形作られていく。余白のあるパーソナルな物語に身を委ねているうちに、自分の思い出を振り返ってしまうようなマジカルな魅力のある作品です。

23/5/31(水)