評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
告白、あるいは完璧な弁護
23/6/23(金)
シネマート新宿
この脚本の素晴らしさたるや! しかも2016年に公開されたスペイン映画『インビジブル・ゲスト』の韓国リメイクなのに世界各国の映画賞で絶賛されている。その理由はひとえに、難解な密室ミステリーを芸達者な韓国の演技人達の抑揚ある表現力で、緊迫感を逆に楽しめる演出にある。しかも日本でも人気のソ・ジソプ(ドラマ『ごめん、愛してる』の謎めいた演技は圧巻だし、『シュリ』での演技も忘れられないが、米ドラマ『LOST』にも出演し、今や国際女優としても活躍するキム・ユンジンの狙った獲物は逃さないと言わんばかりの徐々に追い詰めていく声色は鳥肌ものだ。 会話劇から記憶を辿る物語へと移行する時の手法も、霧の中にも潜り込むような演出でミステリアスさが助長される。それだけでなく、物語のキーパーソンを演じるナナ(アイドルグループ「AFTERSCHOOL」)の七変化は、他者からの印象により見え方が違うことを表現した黒澤明監督の『羅生門』的であり、最近の是枝裕和監督×坂元裕二脚本の『怪物』にも通じるものがある。 そこにキャラクターの職業や状況、事件現場の環境を絡み合わせて生み出した心理的行動やその人の都合により語られる発言が事件を難解にし、それら全てを丁寧に読み解いていくことで事件を紐解くきっかけにもなるという脚本だからこそ、極上のミステリーになっているのだ。
23/6/19(月)