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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

山女

前作『アイヌモシリ』(20)で私たちがあまり知ることのない現代に生きるアイヌの人々の問題に迫った福永壮志監督だから、柳田國男の「遠野物語」に着想を得た本作も大いに期待していたが、描くべきことの精度と力強さが格段にアップした本作は予想を上回る野心作だった。 大飢饉に襲われた18世紀の東北の寒村。そこで人々から虐げられながら暮らしてきた少女が、分け入った山奥でスピリチュアルな“山男”と出会い、初めて“自分“を取り戻していく。ストーリーをまとめるとそんな感じになるが、それが生き辛い現代を生きる……特にコロナ禍を経験した私たちにもさまざまなメッセージと生きるヒントを投げかけるものになっているところが秀逸だ。 『樹海村』でも数奇な運命を辿るヒロインに説得力を持たせていた山田杏奈が本作でも“山女”に命を注ぎ込み、森山未來がこの世の存在とは思えない“山男”をとんでもない風貌で体現。永瀬正敏が少女をこき使う彼女の父親になりきっていて、アメリカで映画を学んだ福永監督のもと、内外のスタッフが作品のテーマを五感に訴える繊細な映像表現で伝えているのも見逃せない。 あとは映画館の暗闇でスクリーンに身を任せるだけ。質素な佇まいを纏った豊かな映画が、大きな気づきをもたらしてくれる。

23/7/2(日)

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