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春日 太一

映画史・時代劇研究家

Pearl パール

映画『X エックス』でポルノ映画の撮影班を地獄に落とした、哀しき殺人老女・パール。本作はそこから約60年前の少女期を通し、彼女の狂気がいかにして生まれたかが描かれる。 夫は出征。家は人里離れた農村。厳格で禁欲的な母とともに、パールは病身の父の介護と家畜への餌やりだけをひたすら続ける。華やかなショービスの世界に強い憧れを抱くも、それは叶うことはない──。 そんな抑圧しかない日々が、ひたすら映し出されていく。そして、後半はその抑圧が絶望、そして狂気へ。 こんな若い時代を送った老後にポルノ映画の撮影班に出くわしたら、それはああなるよな……という説得力抜群の物語展開と心理描写だ。 映像も素晴らしい。20世紀初頭の町並の美しさ、雄大な田園風景が、それと対極的なパールの鬱屈した日常を残酷なまでに浮き彫りにする。カカシを相手にスター気分で踊り、そしてキスから騎乗位に持ち込む様は特に切ない。 殺人鬼の前日譚ではあるのだが、そうならざるをえなかった若者の人間ドラマとして丁寧に描かれている。そのため、ホラーが苦手な人も青春映画として堪能できるのではないだろうか。

23/7/9(日)

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