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社会を映しだす映画をわかりやすく紹介
池上 彰
ジャーナリスト、名城大学教授
キエフ裁判
23/8/12(土)
シアター・イメージフォーラム
第二次世界大戦中、ナチスドイツによって行われたさまざまな虐待と虐殺行為。戦後、イスラエルで裁判にかけられたアイヒマンの供述を傍聴した哲学者のハンナ・アーレントは、アイヒマンについて「悪の陳腐さ」という表現を使いました。「凡庸な悪」とも訳されます。 つまり非人道的な犯罪に手を染めたアイヒマンは、極悪非道な人物ではなく、「上官の命令に従っただけだ」と弁明するだけの人間だったというのです。 この映画は、独ソ戦の最中、ソ連のウクライナに攻め込んだドイツ軍の将校たちがキエフで裁かれる様子を記録したドキュメントです。 ここでも繰り返される言葉は「上官の命令に従った」というもの。人間の愚かさが次々に明らかになっていきます。 しかし被告人に弁護士はつけられず、判決に不服を申し立てることもできず、絞首刑の判決に傍聴席から拍手が起こります。まさに「人民裁判」。絞首刑の執行は公開で行われ、執行された途端、歓声が上がります。これもまた戦争の一局面なのです。
23/7/15(土)