Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

破壊の自然史

破壊によって人間の業がむき出しにされていく。セルゲイ・ロズニツァ監督によるこのドキュメンタリーを見ると、そう思う。題材は、第2次世界大戦末期に連合軍がドイツに行った「絨毯爆撃」。ロズニツァの日本での知名度を一気に高めた『国葬』などと同様に、素材はアーカイブ映像のみ(サイレント映像への効果音と音楽は加えられている)。ドイツが絨毯爆撃を受けるに至った経緯(それはすなわち連合軍側の大義にも結び付く)などの説明はない。空から爆弾が落とされ、地上の様子が変わっていく。市井の人々は居場所も生活を破壊され、さらには武器製造に駆り出されて戦争の一部にされる。その果てに出現するのはおびただしい瓦礫と一般市民の遺体……。その圧倒的な破壊の風景をフィルターなしで見せることによって、ロズニツァは、戦争、そして、それを今に至るまで繰り返し続ける人間の不条理を、観客に突きつける。なぜ、ケリがつけられないのか。そのあたりを考えてみたくなったら、エロール・モリスによるドキュメンタリー『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』(2003年)も、ぜひ。米軍による日本本土への空襲、そして原爆投下をめぐってマクナマラが口にする「勝てば許されるのか」という言葉と、この『破壊の自然史』に描かれていることは、つながっている。

23/7/31(月)

アプリで読む