Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画は、演技で観る!

相田 冬二

Bleu et Rose/映画批評家

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

クローネンバーグ、80歳。 黎明期の自作と同タイトルの最新作は、リメイクではないが、原点回帰したような趣が濃厚。 内臓にタトゥーを施し、その解体ショーを行うアーティスト。と主人公を紹介したところで、もうどんな世界線の物語か、判然としないだろう。人類が痛みの感覚を手離した近未来、という舞台設定も、ほぼ説明されることはない。 いつの間にか、SFは健全なものになってしまったが、かつては禍々しいものだったし、クローネンバーグは、どんな高名な文学が原作でも、ひたすら個人的なSFを紡いできた。 念願のオリジナル企画だという本作は、若返った、というより、この映画作家が延々同じことを続けてきたことを証明して感動的。 フィルム・ノワール風の筆致はチープで、際立ったグロ描写があるわけでもない。あるのは、適度にフェティッシュで、適度にムーディな、ありえないロマンティシズム。人間が、人間以外のものと合体することを夢想するクローネンバーグは、とにかく楽天的で、結果、人類が進化しようが、破滅しようがおかまいなし。合体したら、面白かろう。そのスタンスに揺るぎがない。 朽ちることのない安っぽさをキープしたまま、わが道を往く様は、ひたすら明るい。 辻褄合わせや伏線回収が映画鑑賞だと考える向きにオススメしないが、元気で面白い老人の戯言に舌鼓を打つ贅沢というものが、映画の世界にはある。

23/8/7(月)

アプリで読む