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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
バーナデット ママは行方不明
23/9/22(金)
新宿ピカデリー
現役の俳優でもっとも才能があるスターは?」、と問われれば迷うことなく「ケイト・ブランシェット」と答える。では、「映画監督は?」との同じ問いにはなんと答えるだろか。『6才のボクが、大人になるまで』(2014)を観た直後なら「リチャード・リンクレイター」と答えたかもしれないが、あれから10年近くを経た今は素直にそうとも言えない。だが、本作『バーナデット ママは行方不明』はそんなふたりの初コンビ作だから、期待感は盛り上がる。 かつては天才建築家ともてはやされたが、今は精神を病んでいる主婦のバーナデット(ケイト・ブランシェット)。ある事件をきっかけにこの退屈な世界に訣別してひとり南極に旅立つ、というお話。 極度の人間嫌いで周囲と協調して生きられない屈折したヒロイン像が、いかにもブランシェット好み。原作『バーナデットをさがせ!』(マリア・センプル著/彩流社刊)の大ファンで、バーナデット役を熱望したと媒体資料には書かれている(その甲斐あって第77回ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネート)。 『ブルージャスミン』『キャロル』『TAR/ター』など多岐にわたるジャンルで幅広いキャラクターを演じてきたブランシェット、本作では破天荒でコミュニケーション障がいに悩むヒロインをコミカルに、チャーミングに演じている。本作は、「ケイトには文章で説明できる範囲を遥かに超えている深さや複雑さがある」と語ったウディ・アレンのブランシェット賛辞を思い出さざるをえない、稀有な“スター映画”だ。
23/9/2(土)