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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

風景論以後

同じ風景を見ていても、そこから人が読み取るものは千差万別。そもそも風景ってなんなのか。現在、東京都写真美術館で開催されている「風景論以後」は、見るほどに思考が広がる刺激的な展覧会だ。会場の順路は、反時計回り。風景をめぐる日本の写真・映像作品を時をざっくり遡って見ていく展示構成。歴史、記憶、文化、心象。作家によって風景にこめているものは異なっていて、見ているうちに、風景とは何かがどんどんわからなくなってくる。そうこうしているうちにたどりつくのが、足立正生、佐々木守、松田政男らによる映画『略称・連続射殺魔』(1969)の上映スペース。同作が映し出すのは、68年に発生した無差別連続射殺事件の犯人、永山則夫が「見ていたであろう」風景だが、そこにとらえられているのは、その後、松田が展開する「風景論」で論じられる、権力によって均質化された風景にほかならない。そうした風景を切り裂かんとする中平卓馬の写真作品をはじめとする風景論の時代の作品も刺激的なのだが、会場をぐるりと一周回って、もう一度、2000年以降の作品にたどりつくと、それらもまた、ある意味、均質化にあらがう表現なのだと思われてくる。駅ビルだらけ、ショッピングモールだらけの世界で、風景を自撮りの背景として消費する現代社会の住人たちは、この反時計回りのラビリンスをぜひ体験して覚醒すべきだろう。映像作品も多いので、できれば時間をたっぷりとって、どうぞ。

23/9/5(火)

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