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小さくとも内容の豊かな展覧会を紹介

白坂 由里

アートライター

「あ、共感とかじゃなくて。」

展覧会タイトルの「あ、共感とかじゃなくて。」は、ひと呼吸置いてみる言葉だ。安易に「いいね」とか「わかるよ」という前に。あるいは「共感(理解)できないから拒否する」という前に。自分にはない考えだけど想像してみる、あるいは時間をかけてその場所に身を置いてみるとか、本展にはいろいろな試みがある。 例えば、アムステルダム在住の映像作家・有川滋男の謎めいたインスタレーション。企業ブースが並び、モニター映像で仕事を説明しているのだが、何かをカウントする様子など、それが何のためのどんな仕事なのかよくわからない。でもわからなくていいかという気になる。今までにない自発的な仕事(あるいはアート)はそんなもので、すぐに理解できるものではないなとも思う。 また、どこかの場所について詳しく調査し、そこに住む人たちとのコミュニケーションをもとに作品をつくる山本麻紀子は、展覧会場内に自身のアトリエを再現した。大きな歯の形をした立体は、“巨人の落とし物”。巨人が川に落としてしまった歯が流れていく映像も上映されている。山本がその歯を抱えて眠って見た夢の絵や、その近くに生えていた植物から染めた布作品なども展示されている。世界各国にある「巨人伝説」は、異なる他者への恐れから来るメタファーであったり、地形などと結びついて物語化されたりしたものだ。そうした現実と想像が融合する形を借りながら、巨人に寄り添うような空間となっている。 同じ月を見てそれぞれに撮った写真で構成された渡辺篤の「アイムヒア プロジェクト」など、それぞれ空間ごとに浸れる。会期中、観客がつくり出していく展覧会でもある。

23/9/8(金)

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