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小劇場中心。今後が期待される劇団を発掘

森元 隆樹

(公財)三鷹市スポーツと文化財団 副主幹/演劇企画員

かわいいコンビニ店員飯田さん『悼むば尊し』

劇団名だけ見れば、柔らかいイメージが浮かぶかもしれない。「かわいいコンビニ店員飯田さん」。今や全国津々浦々にあるコンビニエンスストア。そこに働く店員さんの名札の名前をいつしか覚え……というストレートな推測から、ふんわりと想像していっても、そのイメージは柔らかい。 けれど。 その舞台は、その劇団名の柔らかさをいつしか忘れるほど。 鋭利。 時に優しげな振りをして語られる言葉が、時に顔色一つ変えずに喉だけで発せられる言葉が。 あまりの研がれぶりに、痛みを感じることなく致命傷を負わせるのではと思うほど。 鋭利。 作・演出を務める池内風は、元々しっかりとした演出力を持ち、嘘のない生きたセリフを書くことのできる作家であったが、前作『とりあって』(2022年9月/下北沢OFF・OFFシアター)では、その嘘の無さを「ずるい奴は徹底的にずるく、人のせいにできることは何でも使い、同情を引けると思い付けば最大限利用し、相手の手加減を感じると、そこをこじあけてとにかく逃げまくる」ところまで、見事に描いていた。 まるで、半透明のセロファン無しで、太陽を裸眼で見つめようとするかのように。 自分では優しく語っていると過信している人の発言が、いつしか相手を押さえ込むような言葉になっていき、それを本人が気付いていない様が、そこまで書けるのかと思うほど、丁寧な筆致で描かれていた。 そして、今回、池内が描くのは。 『悼むば尊し』 劇団のホームページに「創作にあたり」と書かれた文面には、以下のような文が載っている。 <<<<>>>> 10代の頃、住んでいたマンションの屋上から地面と睨めっこをしたことがあります。 以前公演した『マインドファクトリー〜丸める物たち〜』という作品で最後主人公が階段を登る抽象的な心象表現のシーンで終わりますが、あのあと僕は屋上へ登ることになります。 そしてあと1.5歩前に進めば人生終われてしまう環境で2時間死ぬことへ向き合いました。 1歩ではなく半歩分だけ謎の保険をかけている時点でまぁ無理なんだろうなと想像させますが、当然地面にダイブすることはありませんでした。 その後、母の作ったご飯を食べ、マンションの共同使用できる温泉に浸かり、寝れぬ夜を過ごす的なことで終わったのを覚えています。 そのあとも何度か「あの時、死ねる最大のチャンスだったのでは?」と思える出来事を何発か遭遇しながらもまだまだ元気に生きています。『最近の悩みは痩せられないこと』くらいには落ち着いています。そして最近痩せました。8kg。見違えるようです。 当時から僕は自殺に関してはある考え方を持っており、これまでもずっと揺るがないものでした。 僕の周りでは、親しい友人や知り合いなど出会った多くの方が自殺しています。 年齢を重ねれば重ねるほど、近しい方が亡くなってしまう可能性は高くなりますが、20代前半から知り合いの自殺の報告を受けることが多かったのです。 しかし、死を悼む友人たちを見て、その感情に共感しきれないことに気がつきました。 もちろん悲しみもあるし、突然この世に存在しなくなってしまったことに喪失感などもあるのですが、でもでも、支配してくる感情はもっと別のもので自分はそこにいてはいけないのかもしれないと。 そして最近、揺るがなかったはずの自殺に対してこの考えが大きく変化したきっかけがあったのです。 『人が生まれてきて自ら命を絶つ』 この混沌とした日常で、自殺と死について改めて考え直せるような作品にしたいと思っています。 作・演出:池内風 <<<<>>>> 聞けば、劇団名の由来は、池内が勤務していた会社の仕事があまりにもきつすぎて、精神的にかなり追い詰められていた頃に、出勤前の時間や、わずかな休憩時間に、いつも行くコンビニで働いていた飯田さんの顔を見ることだけが心の慰めであり、飯田さんに会えることだけを日々の希望として過ごしていたことによるらしい。 「かわいいコンビニ店員飯田さん」 決して、柔らかいだけではない。 人の心が、あらゆる方向に撹拌されていくその舞台を、セロファンのようなフィルター無しで、しっかりと見つめたい。

23/9/28(木)

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