ジャン=リュック・ゴダールの名前は多くの人が知っているのに、彼の映画を観に行く人は少数派だ。難解というイメージがあるからだろう。たしかにわかりやすくはないし、とりわけ愉快な映画とも言えないが、凝り固まったイメージに押し込めるのは、彼がやってきたこととは対極だ。彼は常に映画のルールを壊すことを心がけてきたのだから。
本作はそんなゴダールを「映画の神」としてではなく、欠点もトラウマもある人間として捉えたドキュメンタリーで、そこに真価がある。なにより彼と関わった人々が、美辞麗句ではなく率直な感想を述べているのが面白いし、そこからさまざまに異なる顔が浮かび上がるのもまた、ゴダールの複雑さを象徴している。
恋多き男なのに、女性よりは映画のために生き、映画のためには友も捨てた、しかしそれゆえに格闘し続けた孤高の存在。やはりこんな監督は滅多にいないと思わせられる。