評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
日本映画の新たな才能にフォーカス
イソガイマサト
フリーライター
沈黙の艦隊
23/9/29(金)
TOHOシネマズ 日比谷
時代が、現実がフィクションに追いついたというべきか? かわぐちかいじの原作コミックが未来を予測したというべきか? いずれにしても、本作が緊迫した状況が高まっている現代に実写化されるのはとても意味のあることだし、リアルな問題を世界規模のスケールで描く本作を視覚化できるようになった日本の映画人、映像技術のレベルの高さにも感心した。 と同時に、原作コミックやアニメ版のストーリーや世界観にほぼ忠実でありながらも、実写版がそれらよりもより禁欲的に思えたのが個人的な印象だ。それはまるで綿密な設計図から1ミリも狂いがないような仕上がりで、エピソードも『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督による演出もまるで余計なものがない。 役者の動きも削ぎ落されていて、熱いキャラの人物はいても過剰な芝居はしない。『シン・ゴジラ』の登場人物たち以上に自分の役割を全うすることだけに終始し、必要以上のセリフを吐かない。従来のこの手の映画にありがちだった無駄な熱量をすべて排除しているのも興味深かった。 それはいまの時代の体温なのかもしれないが、その極限まで研ぎ澄ましたようなタッチは、本作のメッセージを、加工することなく100パーセントの純度で伝えたい、作り手たちの願いの表れのような気がしてならない。 核ミサイル搭載の原子力潜水艦を独立国家にする艦長・海江田四郎(大沢たかお)の行動、彼と対峙する日米の動きを果たしてどう見るか!? エンタテインメントの可能性を信じ、その力を最大限に駆使した意欲作だ。
23/10/1(日)