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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

くるりのえいが

ロックバンド・くるりの新作アルバム「感覚は道標」ができるまでに密着したドキュメンタリー。単なる記録、メイキングではない。音楽が生まれる瞬間のよろこびを純粋に味わわせる映画だ。くるりは1996年結成、初期は岸田繁と佐藤征史と森信行の3ピースバンドだった。2002年の森脱退後は、さまざまなミュージシャンをメンバーに加えて活動してきたが、「感覚は道標」は森を迎えて3人で作り上げた。なぜ、オリジナルのスリーピースで臨んだのか。映画は、原点回帰の意味を、曲作りとレコーディングの過程を通して描く。つまり、言葉で飾り立てず音楽で勝負するつくりなのだが、この映画では、それが素晴らしく奏効している。とにかく、スタジオでくるりというバンドの音楽が生まれていく過程を、ぜひ目撃してみてほしい。何を作るか、あらかじめゴールを決めず、まっさらなところから、今の3人ならば何を生み出せるか、それぞれに勝負している。その緊張感、その楽しさにわくわくせずにはいられない。さまざまな領域でAIが人間にとってかわる時代が来ているけれど、人はきっと音楽を自分たちの手で生みだし、演奏する時間を手放さないだろうと、この映画を見るとつくづく思う。プロダクトではなくアートを作ることにこそ人間の希望はあるのではないかとも。その意味では啓示的な映画でもある。

23/10/2(月)

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