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水先案内人のおすすめ

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アニメも含め時代を象徴する映画を紹介

堀 晃和

ライター(元産経新聞)、編集者

白鍵と黒鍵の間に

自身の来し方を強く意識させられた作品だった。懐かしさが込み上げ、感傷的な気分になる。舞台は、昭和63年暮れの銀座。大学生だった。東京の街で経験した新鮮な記憶が蘇ってくる。 主人公は、ジャズピアニストを目指してキャバレーで演奏を続ける博と、高級クラブでピアニストとして名をはせながら現状に屈折した思いを抱く南。2人の若者を通して、若い世代は夢を見つめ、年配の者はかつて抱いた将来への期待を振り返るのではないだろうか。ジャズの甘く優雅な調べとは対照的に、痛切な感情が観る者を刺激する。 映画では銀座での一夜が描かれる。博の前に、反社の雰囲気を漂わせた男性客が現れ、『ゴッドファーザー 愛のテーマ』をリクエスト。しかし、その曲は夜の街を牛耳る会長(松尾貴史)のお気に入り。奏でていいのは南だけだった…。 博と南を取り巻く人物の運命が絡み合い、幻想的で濃密な夜が過ぎていく。博と南の一人二役をこなした池松壮亮の演技が見所だ。若さゆえの無邪気さ、虚しさ。表情や仕草にそんな重層的な感情が浮かび上がる。 胸がざわついたのは、原作者でジャズミュージシャンの南博のエンディング曲を聴いた時。感動が膨らみ、余韻を長引かせてくれる。

23/10/6(金)

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