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文学、ジャズ…知的映画セレクション

高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

アンダーカレント

『アンダーカレント』というタイトルから、ジャズファンならビル・エヴァンスとジム・ホールのデュオによる名盤『アンダーカレント』を思い出すだろう。このアルバムのジャケットは傑作で、一度見たら忘れようがない。白いドレスの若い女性が水面下に浮かんでいる幻想的なモノクロ写真は、一瞬、水死体と見紛うような、妖しい不気味さが漂っているのだ。 原作は豊田徹也の漫画だが、今泉力哉は、明らかに、ビル・エヴァンスのアルバムのヴィジュアルを映画全体のキーイメージとして強く意識し、活用しているのは間違いない。冒頭からヒロイン・真木よう子が誰もいない銭湯の中に沈んでいくイメージショットに始まって、彼女はその後も、あたかもオブセッションのように、何度もこの悪夢的な光景に苛まれるからである。 銭湯の女主人・かなえ(真木よう子)は夫の悟(永山瑛太)が突然、失踪してしまい、ようやく気を取り直して再開すると、堀(井浦新)という謎の男が住み込みで働きたいとやってくる。悟の蒸発した理由は何なのか。堀という得体のしれない男の正体は? そしてかなえが取り憑かれた水没する自己のイメージには<死>への欲動が潜んでいるのだろうか。 映画は、前半は幾つかのミステリアスな伏線を張りめぐらせて、それを後半、一気に回収させるというオーソドックスな作劇術に一見、忠実であるかに見えて、ありきたりのドラマチックなカタルシスを巧妙に避けてもいる。 とりわけ、真木よう子と井浦新の微妙に接近しては離反を繰り返す、微妙な<距離感>の描写がすぐれていると思った。今泉力哉は、どちらかといえば、ちょっと天邪鬼な、イマ風なオフ・ビート的演出に拘泥しがちだったが、『アンダーカレント』は、悠然たる語り口で魅了させるだけの力量を発揮している。

23/10/4(水)

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