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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

パトリシア・ハイスミスに恋して

『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』『リプリー』『キャロル』など、パトリシア・ハイスミスの小説を映画化した作品には、傑作・佳作が多い。なかでも最新映画化作品 (といってももう7年も前の2016年作品だが) 『キャロル』での、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラのレズビアン・シーンの美しさは、記憶に新しい。 日本ではまだ未翻訳だが、ハイスミスの生誕100年を節目に出版された、『Patricia Highsmith: Her Diaries and Notebooks』は、膨大な日記やノートを収めたはじめてのハイスミスのデータブック。秘密主義だった彼女の人生の全容が、初めて明らかになった記録の書として知られている。本作『パトリシア・ハイスミスに恋して』はその書を基に、秘密の日記やノート、貴重な本人映像やインタビュー音声、元恋人たち(女性)や家族へのインタビューを敢行したドキュメンタリー映画だ。ヒッチコックやルネ・クレマン、トッド・ヘインズ、ヴィム・ヴェンダース監督らによる映画化作品の抜粋映像も豊富。彼女の謎に包まれた人生と著作に、立体的に光が当てられている傑作だ。 欧米ではアガサ・クリスティーと並ぶ人気を誇るハイスミス。クリスティーが陽でハイスミスは陰、その作品の印象からも人間不信で孤高の人というイメージが強い。それを証明するように、彼女はいつも誰かを愛していなければ生きていけない恋愛依存症、恋愛中毒者だったことを浮き彫りにしていく。なかでも彼女の恋人だった女性たちの愛の回想が、実に生々しく、まるで『キャロル』の後日譚を聞かされているよう。 「私が小説を書くのは生きられない人生、許されない人生の代わり」と語るハイスミスの、想像を絶する孤高の人生を、監督・脚本の女性ドキュメンタリストのエヴァ・ヴィティヤが賛歌している。

23/10/10(火)

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