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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

ザ・クリエイター/創造者

アメリカとアジア、アクションと思索が混沌となった、知的アクション・エンタメだ。 「SFは絵だ」という名言があるが、それを思い出させる。とにかく、ビジュアルが圧倒的で、どのシーンを取り出しても、「絵」になっている。その絵と絵をつなぐ、ストーリーも、アクション映画の王道を行くストレートな展開。 ところが物語は、そう単純ではない。主人公はアメリカ軍の特殊部隊の兵士なので、最初は「アメリカ=善」、「アジア=悪」という構造で物語は進むのだが、いつしか逆転して、アメリカが「悪」になる。『アバター2』もハリウッド超大作なのに反米的だったが、『ザ・クリエイター』も反米映画なのだ。 さらに、主人公は「白人男性」ではないし、物語の中心となるのは、特殊部隊の女性軍人、謎の少女、そして主人公の妻と女性が大半。ハリウッド超大作なりに、いろいろ試行錯誤している。 半世紀ほど先の近未来が舞台で、都市はより無機質となっていて、アーチ型の巨大兵器が空に浮かんでいる。AI搭載のヒューマノイドロボットが兵士として闘っている。AIは暴走し、人類の(といっても、アメリカのだが)敵となっている。 こう書けば、たいがいの人は、いままでの近未来SF映画のビジュアルの数々をイメージするだろう。だがこの映画は、違う。従来の近未来は、アメリカとヨーロッパであることが前提だったが、地球は広い。さらに、昨今の中国の科学技術面での発達を考えれば、アジアでもテクノロージが発展しており、近未来の光景がアジアで展開するのだ。 『ブレードランナー』のようなアジア的都市も出てくるが、主戦場は田園地帯で、ベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』を想起させ、「こんなの、見たことない」という映像が展開する。 見終わってから資料を見たら、監督が参考にしたという影響を受けた映画が列記されていて、そのなかに『地獄の黙示録』も『ブレードランナー』も含まれていた。 人類の敵が異星人ではなく、AIだという設定も、いまでは珍しくもない。この映画は、その敵の最終兵器であるAIが少女の外見をしている点で新しい。 ロボットに心はあるのか、あるとして人間とロボットの間に友情や愛情は存在するのか。『鉄腕アトム』が執拗に描いたテーマが、ここにはある。そして、ロボットには心はないかもしれないが、人間だって「心のないひと」がいるなあと感慨に耽ってしまう。 長いエンドロールは、頭を冷却して思考を整理して、現実世界に戻るのに、ちょうどいい長さだった。

23/10/16(月)

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