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日本映画の新たな才能にフォーカス

イソガイマサト

フリーライター

実際の重度障がい者殺傷事件に着想を得た辺見庸の同名小説が原作の本作だが、『ぼくたちの家族』『舟を編む』などの石井裕也監督は、ここで描かれる問題に、誰もが無視できない、観ないわけにはいかない地平にまで引き上げるアプローチで斬り込んでいるのがスゴい。 犯人がやったことは正義なのか、悪なのか? それを外野から、他人ごととして批判するのではなく、自分の事として見つめざるを得ない多角的な視点を用意。上っ面の綺麗な言葉を並べた小説で評価されるも、その後書けなくなった作家(宮沢りえ)。なかなか評価されない、人形アニメーション作家のその夫(オダギリジョー)。光の届かない施設の部屋でベッドに横たわる言葉を発することのできない女性などなど。社会から必要とされない、排除されるかもしれない、ここに登場する人物たちは、いまの、あるいは明日の自分かもしれない。 そこに都合の悪いことはすべて隠蔽してしまう、この社会の捻れた真実さえも浮かび上がらせる。映画を観た後に何を思い、どう考えるのか? 目を背けるわけには行かない。

23/10/15(日)

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