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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
正欲
23/11/10(金)
TOHOシネマズ 日比谷
ガッキーと親しまれ、テレビドラマでも愛されるヒロインの新垣結衣は、この映画にはいない。最初から最後まで、ほとんど笑わない。魅力的な笑顔を封印して、俳優としての新境地に挑んでいる。 新垣結衣が仰向けに水に浮かぶイメージショットが何度か出るが、ミレイの『オフィーリア』を想起させる。はたして何のメタファーなのか。新垣結衣がオフィーリアなら、ハムレットに当たるのは誰なのか。『ハムレット』とはまったく関係ないのか。生きるべきか死ぬべきか、何人もが悩んではいるが。 そして、「水」がこの映画のキーワード。 最初は4人の主要人物のそれぞれが描かれる。まったく関係のなさそうな4人が、やがて出会ったり再会したりしていくんだなというのは、すぐに想像がつくし、実際、そのように展開する。みなそれぞれ重いものを抱えている。どこか自分が普通ではないと自覚して生きている。 ところがこの映画にあるのは「多様性」を認めましょうという風潮への異議申し立てでもある。 稲垣吾郎演じる検事だけが、自分こそ普通だと確信しているのだが、一番異常に見えてくる皮肉。 稲垣が担当する事件は、制作時にはまさかこうなるとは思わなかっただろうが、あまりにもタイムリーなもの。でも、そのことを大々的に宣伝するのは、難しい。その犯罪を暴く検事を、稲垣が演じているのが感慨深い。 楽しい映画ではない。最初に提示されるが、かなりビターだ。
23/10/27(金)