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春日 太一

映画史・時代劇研究家

SISU/シス 不死身の男

我が好みにピッタリはまった一本だった。 舞台は第二次世界大戦末期のフィンランド。片田舎で砂金掘りをしていた老人が大きな金塊を掘り当て、町までそれを運ぼうとする。その途中でドイツ本国へ撤退中のナチス機甲部隊に遭遇、ナチスは老人に襲いかかる。だが、老人は伝説の最強戦士だった──。 鉛のような大地と曇天だけが広がる、人里離れた荒野。なにもかもが乾いた殺風景の中で繰り広げられる、ツルハシ対戦車の死闘。泥まみれ、血まみれになりながらの肉弾戦を男も女もウェットな要素が一切ない、戦いのみにフォーカスされたドラマ展開。そして、地味なだけでなく「え、ツルハシって、こんな使い方もあるの!」という奇想天外な終盤のバトル。 なにもかもが、“ソルジャーの映画”を求める方には最高にうってつけである。 しかも、それだけでない。本作では虐げられた女性たちの反抗という、近年の映画界でビビッドなテーマも描かれている。といって、昨今の凡百のハリウッド映画にありがちな、それを押し付けがましく声高な主張によって伝えるわけではない。ビックリするような、最高に胸のすく演出によって、表現されているのだ。 映画かくあるべし。そう思わせてくれる作品だ。

23/10/28(土)

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