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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

ナポレオン

予告編に接して以来、渇望していたリドリー・スコット監督の『ナポレオン』を、ついに観ることができた。戦闘シーンの壮大で切れのいいアクション描写、18世紀ヨーロッパの地勢・文化・風俗の実相、軍事と政治の天才でありながら妻との愛憎に苦しむナポレオンの二面性、そのどれもが映画ならではの雄大なスケールで、過不足なく描かれたリドリー・スコット監督の最高傑作といえる。『ナポレオン』といえばサイレント時代のアベル・ガンス監督作品(1927年)が有名だが、それから100年近い時空を経た21世紀の現代に映画『ナポレオン』が誕生したことを喜びたい。 リドリー・スコット監督版『ナポレオン』は、1789年のフランス革命、それもマリー・アントワネットが断頭台で斬首される瞬間をナポレオンが目撃する、というシーンから始まる。そしてナポレオンが指揮した61回の戦争のなかでも特に重要な「アウステルリッツ」「ボロジノ」の戦い、「ロシア遠征」「ワーテルローの戦い」が、11台のカメラと延べ8千人を超えるエキストラを使って再現。スコット監督自身が「戦闘シーンの撮影は全てが規格外、良くも悪くも私自身の中にナポレオンが宿り、撮影に影響を及ぼした」と語るほど、凄絶だ。凄まじいのは戦闘シーンだけではない。不信と裏切りに塗り込められたナポレオンとジョセフィーヌの愛憎関係にも、スコット監督は力点を置いている。戦場での偉大な英雄は、悪妻に悩まされる凡夫でもあったという「二面性」を、ナポレオンに扮したホアキン・フェニックスが見事に体現。その名演は本作を人間ドラマとしてより奥深いものにしている。 「歴史上もっとも著名な人間」に昇りつめたナポレオンの52年の数奇な生涯を描いた「戦争映画」の傑作として、おススメしたい。余談だが、スタンリー・キューブリックの幻に終わった未映画大作『Napoleon』が、HBOドラマシリーズとしてスティーヴン・スピルバーグ監督によって映像化されるとのこと。こちらの完成も大いなる楽しみだ。

23/11/15(水)

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