Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

水先案内人のおすすめ

評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!

映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました

「Netflix日本で最も話題になった作品TOP10」第1位、ユーキャン新語・流行語大賞トップテン、日経トレンディ「2020年ヒット商品ベスト30」12位、などなど世界的に脚光を浴びた韓国ドラマ『愛の不時着』。北から見ても南から見ても、そのヒット・ドラマからのイタダキ、パクリ、二匹目のドジョウ。いや、よく言えばインスパイア作品としか思えないのが、本作『宝くじの不時着』だ。恥も外聞もなくヒット作にあやかろうとするそのココロザシの高さ、オリジナルを超えようとするプロ根性やよし、と絶賛したくなる爆笑コメディ映画だ。 とにかくアイデアが笑える。韓国軍兵士が偶然手にした「当たり宝くじ券」が、風に飛ばされて (まるで『フォレスト・ガンプ/一期一会』の羽根のように) 北朝鮮へ。それをたまたま拾った北朝鮮兵士と落とし主が、当たり金額6億円を奪い合う…なんという、トッピ過ぎるお話。我が国の大ヒット作『翔んで埼玉』のスケールとはケタが違う、違いすぎる。 本作の主な舞台となるのは、北緯38度線付近の軍事境界線上にある休戦ライン。いうまでもなく『愛の不時着』の舞台になった場所。古くは韓国映画ブームの火付け役となったパク・チャヌク監督『JSA』の舞台としても知られている。政治的にも軍事的にも重大な意味を持つその場所で、韓国と北朝鮮の兵士たちが、一枚の宝くじをめぐって“南北会談”を開催する、というシチュエーション。面白おかしい設定だが、笑ってばかりはいられないシリアスさ。そのさじ加減が絶妙だ。 お金に無頓着ではいられないのが人間の常。その常識を逆手にとって弾けるような笑いを生み、さらに一攫千金の夢で結ばれた両国の兵士の友情物語にまで高めていく、その脚本と演出の妙技。2022年サマーシーズンにおける韓国での公開前は完全にノーマークだったが、その突き抜けた面白さが瞬く間にSNSで拡散、封切り5日目には興収チャート1位に駆け上がるスマッシュ・ヒットとなった、と媒体資料が伝える本作、まさに韓国映画の底力ここにあり、だ。 分断国家の悲しみと怒りを潜ませつつ、爽快なユーモアで包み込んだコメディに仕立てたのはこれが長編2作目となるパク・ギュテ監督。作家・演出家・俳優の松尾スズキが日本語字幕監修を手がけている点も見どころだ。

23/11/27(月)

アプリで読む