巨匠アキ・カウリスマキの映画に出てくるフィンランド人たちは、みんな無口で無表情でぶっきらぼうに喋る。最初に彼の作品に触れたときは「そういう演出なのか」と思ったのだが、実は北の国フィンランド人たちがそもそもそういう人たちなのだ。しかし一見してぶっきらぼうに見える彼ら彼女らの内面には、詩情豊かでしっとりとした情感が溢れている。2010年のドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』では、サウナ室に入りくつろぐと、堰を切ったように内面の気持ちを吐露しはじめるフィンランドの男たちが描かれて、とても好印象だった。
本作の主人公は、仕事を失いそうになりながらも懸命にブルーカラーとして働く男女。そのふたりがカラオケバーで出会い、おたがいの名前も知らないまま惹かれあう。彼らのギリギリの生活、しかしそこでも持ち続けている自らの人生への矜持、そして孤独な心の触れあい。それらがカウリスマキ特有のユーモアに包まれながら描かれていて、とてもしみじみと心に沁みる。感情を派手に表に出さない日本人は、フィンランド人に心寄り添いやすいのだ。