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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

99%、いつも曇り

今、発達障がいと診断される人が以前よりも増えていると言われている。けれどその理由には世界もだが日本で特にその研究が遅れていただけで、生きづらさを抱えている人が、自分を知るために診断する、もしくは子の特性が気になり診断した結果と言われている。確かにそれが特性だと知らなければ“変わった人”といった扱いを受ける可能性がある。そして知らないからこそ偏見を持つ社会でもある。私自身、診断を受けた親族がいるので、彼女彼らの魅力や感情を知ってもらいたいとも思う。そういった意味で本作は、今までとは違うもう一歩突っ込んだ当事者が抱える悩みに着目した物語だったことに心動かされた。それは女性が出産を考えた時に生じる、自分自身は特性を受け入れられているか、という心に問う脚本だったからだ。 理解されない感情や自分のこだわりについて思い悩む主人公は、迷惑どころか愛おしい。「この子をなんとかしたい」と思った先の距離の詰め方が、やや滑稽ながらたまらなく愛おしい。一生懸命考えて生きている姿は、愛のかたまりとしか思えないのだ。そんな主人公を生み出したのが瑚海みどり監督。自身の思いを詰め込んだ登場人物のエピソードの数々にクスッと笑いながら胸がいっぱいになる。更に本作の素晴らしい点は、「そんな私を受け入れて!」と叫ぶわけでもなく、「パートナー、ありがとう」という愛に包まれたものでもあった。出来た夫を演じる二階堂智の佇まいがまた良い。こんな寛大な人間になれたらなぁと自分を反省し、多くの人に届けたい作品だった。

23/12/18(月)

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