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政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
サイレントラブ
24/1/26(金)
TOHOシネマズ 日比谷
前半はチャップリンの『ライムライト』のよう。目の不自由な若い女性と、声を失い名乗れず、思いを語れない若い男性の物語。男性は何の見返りも求めず、期待もせずに、女性に尽くす。 この映画でも、浜辺美波は笑顔を封印する。笑ってなんかいられない境遇にある。山田涼介もいろんなものを背負っていて、いつも不機嫌そうで、笑顔を見せない。 この世代の俳優たちは、ひところ流行した胸キュン映画とは違う次元へと歩んでいる。 2人とも障がいを持つが、2人の間には、さらに経済格差という壁というか傷害がある。浜辺美波は裕福な家のお嬢様でピアニストを目指す音大生。山田涼介は貧しく、浜辺美波が通う音大の清掃の仕事をしている。まさに雲泥の差。 そこに別の金持ちの男性やヤクザがからみ、後半は、吉永小百合が出ていた頃の日活映画みたいになる。 チャップリンと日活映画を足して2で割ったようなあらすじだけ読めば、あまりに古いと思ったが、見ると、古臭くはない。抑えた色調の画面に、音のない会話。余分なノイズがない。2人の透明感が、陰惨な物語を暗くさせない。 山田涼介は、声が出せず、貧乏で、威張れない過去があるという、およそアイドルにはふさわしくない役を、力まずに演じている。コミカルなイメージが一新された。 浜辺美波は、いつものように、強くて上から目線で、見方によってはわがままな女性の役だが、いつものように、不快にさせない。『君の膵臓をたべたい』でも『シン・仮面ライダー』でも『ゴジラ-1.0』でも、常に彼女は男性に命令する。それでいて嫌われないのだから、不思議なキャラクターの女優だ。
23/12/27(水)