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時代と向き合う映画を鋭い視点で紹介

佐々木 俊尚

フリージャーナリスト、作家

ビヨンド・ユートピア 脱北

北朝鮮から逃れようとする“脱北者”たちは、まず鴨緑江をわたって中朝国境を越え、そこから東南アジアを経て安全なタイへと到達し、そこからやっと韓国に入国できる。ぐるりと大きく遠回りしないと38度線を越えられないのだという話は以前から有名で、知識としては知っていた。しかしその逃避行が具体的にはどのようなもので、どのような風景を抜けていく旅なのかはあまり明らかになっていなかった。 本作はその旅路をつぶさに撮影し、リアルな脱北のすべてを明らかにした希有なドキュメンタリーである。脱北者は二組登場する。年老いた祖母と幼い孫を含んだ三世代の一家五人。もう一組は、先に脱北して韓国で待ち受ける母とこれから脱北しようとしている息子。 再現フィルムのようなものはなく、すべてがスマホなどで撮影された実写である。山中に潜み、ジャングルを抜け、検問を通り抜け、セーフティハウスでひとときの安息を得る。その一部始終が揺れ動く映像とともに描かれており、観客は食い入るように画面に釘付けになる。 さまざまな明暗があり、希望と絶望がある。これは日本でも多くの人びとにぜひ観ていただきたい作品である。

24/1/17(水)

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