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春日 太一
映画史・時代劇研究家
サンクスギビング
23/12/29(金)
TOHOシネマズ 日比谷
王道的な作りのスラッシャー映画なので、このジャンルが好きな方は手堅く楽しめるだろう。ゴア描写はそれなりに強烈なので、それが苦手な方には絶対にオススメしない。個人的にはとても楽しめた。 サンクスギビングデイに開催される大セール“ブラックフライデー”の夜、ショッピングセンターに押し寄せてきた群衆がパニックに陥り入口へ殺到、商品の奪い合いの果てに多くの死傷者が出る。だが、その一年後も経営者はブラックフライデーの開催を宣言。そして、一年前の惨劇を誘発した人々が、ひとりずつ残忍に殺されていく。 ショッピングセンターでの大惨事の様子が序盤の段階で多角的かつ丁寧に描写されているため、観客は“なぜ、どのようにして、この悲劇が起きたのか”の全体像をあらかじめ把握できている。これが効いた。その結果として、1年後に関係者たちが惨殺されていく様に、勧善懲悪ともとれる危険な爽快感が生まれることになったからだ。しかも、“罰せられるべき人間”がキッチリと罰せられてくれるので、ストレスも残らない。 肝心の殺人鬼の正体は終盤まで隠されてはいる。だが、この手の映画を見慣れている方にはなんとなく目星はつくだろう。それらしいヒントやミスリードも随所にある。そのため、“どんでん返し”というよりは“答え合わせ”というスタンスで楽しめることができるはずだ。 ただ、基本的には王道な映画なのだが、唯一異色な存在がいる。それがヒロインだ。ド派手な描写のある殺人鬼や被害者に目が行きがちだが、実は彼女こそ要注目。 気づきにくいかもしれないが、この手の映画では珍しいほど、“彼氏”の選び方が打算的というか現実的なのだ。“ある人物”の立場で観てみると、彼女こそが最も残酷な人間に見えてきたりもする。
23/12/28(木)