評論家や専門家等、エンタメの目利き&ツウが
いまみるべき1本を毎日お届け!
政治からアイドルまで…切り口が独創的
中川 右介
作家、編集者
ある閉ざされた雪の山荘で
24/1/12(金)
TOHOシネマズ 日比谷
ミステリのなかには、「クローズドサークル」というジャンルがある。絶海の孤島にある別荘とか、嵐で外界との往来と通信が断たれた山荘などの、「閉じられた空間」に集められた人たちが、次々と殺されていくもの。その代表がアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』だ。 そういう設定そのものが不自然なので、リアリティを重視すると、成り立たない。それを逆手にとって、この物語は、ある劇団のオーディションが山荘で行なわれ、現実には雪は降っていないが、雪で閉ざされたという仮想の設定を、登場人物が受け入れることから始まる。観客もそれを追認しなければならない。 そして、事件が起きるのだが、それがオーディションの課題の一部なのか、誰かがそれに便乗して殺したのか。 原作では、山荘で「稽古」するために7人が集められたことになっていたが、映画では「オーディション」という設定になっている。そこが大きな違い。 あらすじを読めば、ミステリ好きなら誰もが思い出す『そして誰もいなくなった』は、映画の中でも言及されている。つまり、こういうのは古典的な設定であると分かった上での映画(東野圭吾の原作)だ。 登場人物はみな俳優。俳優が俳優の役を演じる映画で、バックステージものでもある。 俳優は「ウソを演じるのが仕事」だ。クローズドサークルという仕掛けと、この平然とウソをつく人たちしか登場しないという設定が、この映画の核心。重岡大毅はじめ、若い俳優たちは、「うまくない俳優」という難しい役に挑んでいる。 ミステリ映画の難しさは、配役を見れば、誰が犯人か推測できることで、だいたい、ギャラが高そうな人が犯人だ。この映画でも、重岡が怪しいが…… 映画化は難しいと思われていた原作だが、多少の無理はあるものの、うまく映像化されている。映画自体のカメラとは別に、山荘内に設置されている監視カメラの映像も随所に映し出されるのは現代的で、なかなか凝った映画的演出。と思って見ていたが、実は…… ミステリなので詳しいことは書けないが、「俳優」という人たち、「劇団」という集団について考えさせられる一面も持つ映画だ。
24/1/9(火)