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春日 太一

映画史・時代劇研究家

ビヨンド・ユートピア 脱北

年間ベスト級の作品だ。 北朝鮮から韓国へ亡命する“脱北”の過程を克明に追ったドキュメンタリーで、再現映像を使わずに現場撮影のみで構成した映像はあまりに生々しく、その緊迫感に震えた。 韓国へ亡命といっても、両国の国境は警戒が厳しい上に地雷原でもあるため、直接向かうことはできない。そのため、まずは中国に入り、そこからベトナム、ラオス、タイを経由するしかないという。ただでさえ長大な道のりなのだが、その道中のすべてが危険極まりない。 中国との国境には大河である鴨緑江が流れ、渡河を北朝鮮の警備兵に見つかれば射殺されてしまう。なんとか国境を超えても今度は白頭山の大山系が立ちはだかり、それを突破しても共産国家である中国・ベトナム・ラオスの警備に見つかると北朝鮮へ強制送還され、死よりも厳しい拷問が待ち受ける。 そして脱北の手引きをするブローカーも一筋縄でいかず、脱北者たちを“金づる”としか見ていない。 そんな想像を絶する困難の連続が、韓国で脱北を受け入れてきた牧師の活動と、彼が助けようとする二組の脱北者を通して映し出される。だが、その二組の運命は対極的なものだった──。 上映時間のほぼ全てが強烈な衝撃に満ちており、一秒たりとも目を離すことはできないし、離してはならない。

24/1/14(日)

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