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水先案内人のおすすめ

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歌舞伎、文楽…伝統芸能はカッコいい!

五十川 晶子

フリー編集者、ライター

スーパー歌舞伎 ヤマトタケル

昨今次々に世に送り出されている数々の新作歌舞伎。まさにその礎となっているのが、1986年2月に新橋演舞場で初演されたスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』といえるだろう。哲学者の梅原猛が書き下ろし、二世市川猿翁、当時の三代目市川猿之助が脚本と演出、そして主演を勤めた。 古典歌舞伎の表現や美意識、そしてそれまでに創られてきた『獨道中五十三驛』『加賀見山旧錦絵』『當世流小栗判官』などの「猿之助歌舞伎」の蓄積を軸に、3S(ストーリー、スピード、スペクタクル)の要素を重視。装置や音楽、美術も新たな視点で融合させた新しい一大ジャンルとなり、歌舞伎界や歌舞伎ファンはもちろん、世の中をもあっと言わせた。 当時の三代目猿之助はスーパー歌舞伎の構想を初演の数年前に著書でこう語っている。少々長いが引用する。 「歌舞伎の要素を取り出し、新しいものを創る──それを本格的に創るとなれば、どのようなことが考えられるか。目下のところ、歌舞伎の要素を使った新作の第一弾として、梅原猛氏と『ヤマトタケルの生涯』を企画している。(中略)歌舞伎に近代合理主義が導入され新歌舞伎が生まれてきたその時点に帰って、歌舞伎独特の要素──女方や、演出、発想、色彩美、音楽による所作等々、を駆使した新・新歌舞伎、こういう新作をつくりたいと思っている」(『猿之助修羅舞台』市川猿之助著、1984年、大和山出版社/1994年、PHP文庫) 宙乗りや様々なケレン溢れる演出のイメージのある「猿之助歌舞伎」。一方で猿之助は、大学や博物館、劇場などで収集・管理・研究されている江戸時代の芝居の台帳、評判記や錦絵、芸談や評伝などの膨大な史料に触れ、当時の歌舞伎のドラマツルギーや表現を血肉とし、数々の通し狂言を創り出して来た。そのスピリットが後にスーパー歌舞伎につながり、今もなお新たな花を咲かせ続けていることを思うと、改めてその才能の比類のなさを思い知らされる。 この2月、初演当時の演出や構成に立ち返り、令和の時代の『ヤマトタケル』として上演される。顔ぶれもグッと若返り、小碓命後にヤマトタケルと大碓命の二役を交互主演で勤めるのは中村隼人と市川團子だ。隼人の父、中村錦之助は1988年にヤマトタケルを勤めている。また團子の祖父は二世猿翁、すなわち三代目猿之助その人。また兄橘姫と弟橘姫を1988年以来の早替りで勤めるのは中村米吉。米吉の父・中村歌六も初演から10回にわたり『ヤマトタケル』に出演している。 登場人物の実際の設定年齢に近い世代の役者たちが揃い、原作が描いていた『ヤマトタケル』の新たな姿を見せてくれるに違いない。

24/1/23(火)

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