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映画から自分の心を探る学びを

伊藤 さとり

映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)

12日の殺人

アプローチのスタイルこそ違えど殺人事件の捜査を描く作品に傑作は多い。デヴィッド・フィンチャーの『セブン』(1995)や『ゾディアック』(2007)、ポン・ジュノの『殺人の追憶』(2003)もそうであり、刑事バディものとしてもクオリティが高い。この題材を“未解決事件”になった捜査の難解さだけでなく、根底の問題に目を向け、気付きづらい偏見を浮き彫りにすることで数々の映画賞を手にしたのが本作だ。 そんな本作だが、実話をベースにしつつもオリジナル映画として作り上げたのが『悪なき殺人』(2019)のドミニク・モル監督とバディの脚本家ジル・マルシャン。このふたりは間違いなく、劇中のバディ刑事のように、殺人を犯す人々の心理に興味を持ちつつ、調べていくうちにいつの間にか他人事では無くなる感覚に囚われてしまうのだろう。その理由は、描かれるのは事件の真相というよりも死者に関わった男たちの視点や捜査官である男たちの言動や自らの視点なのだ。 男社会の中での捜査で見落としている点は無いか? この事を描いた辺りで、監督と脚本家は物語に女性たちの声を入れ始める。「何故、女性をそう見てしまうのか?」「何故、犯罪を犯すのも男ばかりで、捜査をするのも男たちなのか?」 明らかにここが今までの捜査もの映画とは違う点であり、私たちに突如問いかけてくる言葉だ。あなたは見た目や性別、人からの印象だけで、相手を判断してしまっていないか? そこに軽視はまったくないか? これは同じフランス映画『落下の解剖学』(2024)にも共通するテーマだ。今、フランス映画界では、目に見えない潜在意識に植えついてしまった女性軽視や差別への気付きを持ってもらおうと映画人は活動しているのかもしれない。

24/3/8(金)

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