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大島 幸久

演劇ジャーナリスト

音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~

劇詩人・寺山修司は異能の人だった。その寺山は昭和58(1983)年、47歳という充実期に亡くなった。今年、命日の5月4日には41年目に入るが、昨年から40周年を偲ぶ公演が続いていて『不思議な国のエロス』も追悼の心を込めている。 異色作とされるこの作品は、まず珍しく音楽劇であることだ。劇団四季の浅利慶太氏から依頼されて書き下ろした戯曲でその後、2014年に流山児事務所が『寺山修司の「女の平和」』の上演名で初演されていた。ギリシャの劇作家アリストパネスの喜劇『女の平和』を下敷きに、ルイス・キャロルの児童小説『不思議の国のアリス』の世界も借りたユニークな視点が寺山の異能ぶりを証明している、と思う。 「アリス」と語呂合わせのような「エロス」にキーポイントがある。舞台はアテナイの都。対立するアテネと、スパルタやアカルナイの戦争が長引く中、アテネの武将ラケース(高橋ひろし)の妻ヘレネーが立ち上がり、女たちに提案する。馬鹿な亭主や男たちに「セックス・ストライキをしましょう」。 演技力急上昇の松岡依都美演じるリーダー役のヘレネーのほか、ストライキに加わりたいがアイアス(渡邉蒼)と結ばれたいクローエ(花瀬琴音)、そして物語の案内人ナルシス役は朝海ひかるが扮する。その他、横溝菜帆、北村岳子、占部房子らの女優陣、原田優一、内海啓貴らの男優陣が顔を並べた。 寺山の知的で詩的な台詞が飛び交い古川麦が全曲書き下ろす音楽。果たして男たちは闘いを終えるのか。平和をーー。声をあげる女たちの奮闘物語である。

24/2/16(金)

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