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パリ発、ヨーロッパで話題の作品を
佐藤 久理子
パリ在住、文化ジャーナリスト
落下の解剖学
24/2/23(金)
TOHOシネマズ シャンテ
2023年カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞に始まり、今年のアカデミー賞5部門ノミネートまで上り詰めたフランス産スリラー。夫殺しの容疑をかけられた妻の裁判が進むなかで、夫婦の秘められた関係性が明らかにされるプロット自体は、とくに目新しいものではない。が、本作の魅力はよく練られた脚本と、現代的なヒロイン像(ザンドラ・ヒュラーが出色)にある。たとえば人生のルーザーであった夫に引き換え、妻は成功した作家で夫よりパワーがあり、それが原因で夫婦の喧嘩が絶えなかったことがわかる。彼女はまた、二面性を持ったサイコパスや、典型的悪女というわけではない。仕事に意欲的に生きていたら、いつの間にか夫と取り返しのつかない溝ができてしまった、というところが新鮮、かつ胸に響く。それはどんな夫婦にも共通するパワーバランスの問題で、そこにリアリティに根付いた本作の強さがある。
24/2/17(土)