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社会を映しだす映画をわかりやすく紹介
池上 彰
ジャーナリスト、名城大学教授
ナチ刑法175条
24/3/23(土)
K's cinema
ナチス・ドイツが600万人ものユダヤ人を強制収容所で虐殺したことは広く知られていますが、同性愛者もまた収容所に入れられ、あるいは処刑されていたことは、あまり知られていません。しかし、当時「刑法175条」という法律があったのです。 この法律が制定されたのは1871年のこと。「男性と男性の間で、あるいは人間と動物の間で行われる不自然な性行為は、禁固刑に処される。公民権が剥奪される場合もある」というものでした。 驚くべきは、戦後も東ドイツでは1968年まで、西ドイツでは1969年まで残っていたことです。偏見の根深さを感じます。 この映画は、この実態を、ナチ支配下で弾圧された6人の男性同性愛者と1人の女性同性愛者の証言で描いています。 この法律で約10万人が捕まり、1万5000人以上が強制収容所に送られたといいます。 ユダヤ人は例外なく強制収容所に送られて処刑されましたが、ユダヤ人でない同性愛者は「更生」の名の下に医学実験の対象になったりした結果、生存者は約4000人に留まりました。 しかし、その多くが沈黙を守っていたため、長らく知られることはなかったのです。果敢な取材と勇気ある証言によって、隠されていた歴史の闇が明らかにされました。
24/3/25(月)