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水先案内人のおすすめ

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政治からアイドルまで…切り口が独創的

中川 右介

作家、編集者

52ヘルツのクジラたち

冒頭の20分ほどは見るのが辛いシーンが続く。途中で見るのをやめようかと思ってしまった。しかし、それを過ぎれば、以後も決して明るく楽しい話ではないのだが、目を離せなくなっていく。辛いけど、がまんして見てほしい。 前半では、西野七瀬が強い印象を残す。子を虐待するシングルマザーという、いわゆる「汚れ役」に挑んでいるのだ。なんでこんな役を引き受けたのかと思うほど悪いイメージしかない役だが、女優を続けるにはこういう役もやらなければならないのだろう。 この西野が、杉咲花演じる主人公の前から姿を消してからが、本筋となる。 杉咲花と志尊淳たち主人公は、児童虐待、介護、LGBTなどを背負っている。そこに宮沢氷魚演じる、恵まれた環境で育った「社長の息子」が現れる。宮沢も損な役で、人間のクズとしての一典型を、にくらしく演じている。 虐待を受けて失語症となってしまった子も重要な人物。髪が長いので、女の子かと思って見ていたら、男の子だった。ストーリー紹介にはちゃんと「少年」と書いてあるのを、筆者が見落とし、勘違いしていただけなのだが、もうひとり、男女のどちらなのか分かりにくい人物も出てくるので、それと重ねているのかと深読みしてしまった。 辛い物語だが、ラストは救いというか希望があり、そういう「救い」の部分を、小野花梨が演じる「主人公の親友」が支えている。 そして、メタファーかと思われたクジラが、意外な展開をもたらす。 子役を含め、若い俳優たちが、しんどい役をナチュラルに演じ、「いま」を切り取った見ごたえのある映画だ。

24/2/28(水)

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