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芸術・歴史的に必見の映画、映画展を紹介

岡田 秀則

国立映画アーカイブ主任研究員

世田谷文学館コレクション展 衣裳は語る──映画衣裳デザイナー・柳生悦子の仕事

世田谷文学館は「文学館」という名称にもかかわらず、区が東宝砧撮影所のお膝元だけあって本格的な「映画資料館」でもある。成瀬巳喜男や小林正樹をはじめとする映画史上の巨人たちの旧蔵資料もここにあり、日本ではいまだ発展途上とも言える映画資料のアーカイブ活動を先駆的に牽引してきた館でもある。 そんな同館の映画系コレクションの中でも、東宝映画のコスチュームを支えた柳生悦子(1929-2020)の資料ほどチャーミングなものはないだろう。東宝撮影所では、サラリーマン喜劇の森繁久彌も、ひばり・チエミ・いづみの三人娘も、無法松の三船敏郎から忠臣蔵の面々まで、はては地球を襲撃するナントカ星人もことごとく柳生のデザインした服を着ていた。映画には、単にかっこいい衣裳、かわいい衣裳は求められない。各人物のキャラクターを生かすと同時に、複数の人物が一つの画面に収まった時に生きてくるようなアンサンブルも不可欠だ。 会場では、そんなカラフルで愛らしいコスチューム原画の一枚一枚が宝石のように輝いている。それは映画が白黒からカラーに移行した1950年代の勢いも表現している。しかも可愛いだけの企画ではない。東宝映画『日本海大海戦』の衣裳を担当して以来日本の軍装史の本格研究に着手し、大著『日本海軍軍装図鑑』にまとめ上げた逸話も業績のもう一つのアンカーを成す。 これまでも同館は、これら柳生のデッサンをコレクション展や世田谷美術館の「東宝スタジオ展」などで小出しにしてきたが、ついに「柳生悦子」という一本看板で展覧会が成立したことを喜びたい。そしてこうした仕事の蓄積は、ひとりの女性映画人が黄金期の日本映画界をいかに機敏に渡り歩いたかという闘いの軌跡でもある。3月31日まで。

24/2/28(水)

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