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水先案内人のおすすめ

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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

あまろっく

「あ・ま・ろ・っ・く」……な、なんなんだ、この妙な語感のタイトルは??? 尼僧がロッカーに変身するお話? それとも尼さんロッカーの音楽ドキュメンタリー……? そんなこんなで前情報なしで挑んだ『あまろっく』。主演の笑福亭鶴瓶と江口のりこの濃いキャラ同士のふたりの怪演がぶつかり合った、実に見ごたえのあるハートフルで人情味溢れるヒューマン・コメディの佳作だった。 「あまろっく」とは、「0メートル地帯」の尼崎市を水害から守るために作られた「尼崎閘門(あまがさきこうもん)」のことで、通称「尼ロック」。船舶が通航できる日本最大のこの閘門は、市内に海水が流れ込むのを防いで水没から守っている。本作を監督した中村和宏は、「小6まで尼崎で育っていながら何も知らなかったので調べると、水害から街を守る日本一大きな“閘門”なのに尼崎市民でも知らない人がほとんど。なんのアピールもせずただそこにいるだけで家族を守っている不器用な父親のようだと思ったのです」と本作の製作動機を語る。 その不器用なやもめの父親(鶴瓶)と、理不尽なリストラにより尼崎の実家に戻ってきた39歳の娘(江口)が本作の主人公ふたり。物語は、怠け者でグータラな父親が20歳の女性を再婚相手として家に連れてきたことから、大騒動がはじまる。 十三(大阪の下町)あたりの飲み屋街を夜な夜な徘徊しているような典型的な浪速おやじに扮した鶴瓶の演技が、実に軽やかで融通無碍。飄々と人生を謳歌している浪速おやじの体臭までが匂ってくるような錯覚が起きる絶妙な演技。その娘に扮したのが江口だ。自分より16歳も年下の娘が“義母”、というあり得ない設定なのに違和感を感じさせないのは、江口の超個性的な虚実皮膜の演技だ。今や超売れっ子の江口の、進化し続ける演技を見るだけでも一見の価値がある。 見終わった後なかなか楽しい気分にさせてもらえない日本映画が多いなか、間違いなく一週間はウキウキとした気分にさせてくれる貴重な一本としておススメしたい。

24/3/20(水)

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