北は秋田の康楽館から西は熊本の八千代座と、各地に点在する古い芝居小屋。その各地の小屋にスポットが当たるきっかけとなったのがこの旧金毘羅大芝居、通称金丸座だ。なんと天保6年1835年に建築された現存する劇場建築としては日本で一番古いものであり、江戸時代の芝居小屋の雰囲気を思わせる貴重な小屋だ。
1984年に放映されたテレビ番組で、二世中村吉右衛門、澤村藤十郎、十八世中村勘三郎(当時中村勘九郎)がこの金丸座を訪れ、「ここで歌舞伎をやりたい」と盛り上がったことがきっかけとなり劇場として復活。以来定期的に芝居が打たれてきた。
役者の名前を染め抜いた幟がはためき、小屋の周りには多くの土産物屋が並ぶ。体をかがめて鼠木戸をくぐって小屋へ入るとそこはもう別世界。平土間(客席)は枡席になっており、明かり窓を閉じた暗い場内のそこかしこの提灯に灯がともっている。舞台に目をやるとろうそくを模した照明でボーッと役者が浮かび上がる。そのまま錦絵になりそうだ。鳥の声や雨の音など外気の気配を感じながら観る独特のライブ感も小さな芝居小屋ならでは。
舞台機構も独特だ。土間をつっきるように本花道と仮花道が設置されている。回り舞台は今も人力で動かしており、2003年の改修工事では、これまで観劇の妨げとなっていた四本の柱も除かれた。江戸時代の仕掛け「ブドウ棚」「かけすじ」とよばれる宙乗りの機構も復元された。さらに2021年には耐震補強工事も行われ、さらに安全に生まれ変わった金丸座。コロナ禍でいったん中断されたが、今年の春、ようやくこんぴら歌舞伎が復活する。
演目は第一部が『沼津』『羽衣』、第二部が『松竹梅湯島掛額』『教草吉原雀』。『沼津』で呉服屋十兵衛を勤めるのは松本幸四郎。平作の中村鴈治郎との二人による客席降りならぬ土間降りが楽しみだ。また『松竹梅』で紅長(幸四郎)がかける”お土砂”の場面でも、舞台と土間の一体感が味わえる演出となりそうだ。また『羽衣』では中村雀右衛門が天女を初役で勤める。仮花道の上を宙乗りで舞うとなればひときわ幻想的に。打出しの『吉原雀』も、引き抜き、ぶっ返り、立回りと、こちらも常にも増して賑やかな一幕となりそうだ。