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植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
システム・クラッシャー
24/4/27(土)
シアター・イメージフォーラム
『タクシードライバー』のジョディ・フォスター、『レオン』のナタリー・ポートマン、『ハリー・ポッター』のエマ・ワトソンなどなど、子役の名演技によって映画史にその名が刻まれる名作は少なくない。本作『システム・クラッシャー』も、障がいを抱える9歳の少女を演じたヘレナ・ゼンゲルの超絶技巧レベルの演技によってベルリン国際映画祭、バイエルン映画祭他で37もの賞を受賞、“子役名演技映画”として認知されつつある。 「システム・クラッシャー」とは何か? 媒体資料によれば、「粗暴な振る舞いで、行く先々の施設で問題を起こす制御不能で攻撃的な子供を指す隠語」、とのこと。本作の主人公であるベニーは、父親から受けたトラウマが原因で、思い通りにならないことがあると手の施しようがないほど攻撃的になる「システム・クラッシャー」少女。グループホームや特別支援学級など行く先々で問題を起こす彼女は、まさに感情を制御できないモンスターだ。少女が怒りを爆発させるシーンでは、本当に正気を逸してしまったのではないかと思わせるヘレナの演技が圧巻。彼女の天性の演技力によって作品に生命が宿り、観る者を戦慄させる。 ヘレナ・ゼンゲルは本作でドイツ映画賞の主演女優賞を歴代最年少で受賞。出演後にトム・ハンクスとの共演作『この茫漠たる荒野で』でハリウッドデビューを果たしている。彼女の名演技を引き出したのは、本作が長編デビュー作となるノラ・フィングシャイト(Netflix『消えない罪』)、同じドイツ映画賞で作品賞、監督賞、脚本賞を獲得している。 “子役名演技映画”の金字塔的作品といえば、『禁じられた遊び』をあげないわけにはいかない。戦争で両親を喪った少女ポーレットの悲劇が、テーマ曲『愛のロマンス』の旋律にのって甦る名作中の名作だ。そのポーレットの無垢の悲しみと、本作『システム・クラッシャー』の少女ボニーの怒りはコインの表と裏。72年も前の名作と本作は、“子供は社会の映し鏡”という共通項でつながっている。だが、残念ながらポーレットはユートピアの住人、ボニーは現代の不寛容なディストピアの犠牲者なのだ。
24/3/24(日)