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映画のうんちく、バックボーンにも着目

植草 信和

フリー編集者(元キネマ旬報編集長)

フィルム・ノワール映画祭

『ベラクルスの男』 K’s cinema「フィルム・ノワール映画祭」(4/27〜5/17)で4/29、5/7、5/15に上映 20歳のころ、1960年代後半から70年代前半にかけて吹き荒れた学生運動と反戦運動に背を向けて、フレンチ・フィルム・ノワールの世界に没入していた。『地下室のメロディー』『ラ・スクムーン』『サムライ』など、今でもそれらのタイトルを聞いただけで当時の高揚感と閉塞感が甦る。ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンド、リノ・ヴァンチュラが演じたアウトローは、我が青春のヒーローだった。 なかでも忘れがたいのは、リノ・ヴァンチュラが孤高のスナイパーに扮した『ベラクルスの男』。無口な殺し屋はライフルを隠し入れたズタ袋ひとつを背に、世界各地を飛び回る一匹狼の殺し屋。あだ名は「禿タカ」、好物は生のニンニク。監督したのは、ジャン=ピエール・メルヴィルとフレンチ・ノワールを牽引したジョゼ・ジョヴァンニだ。ジョヴァンニは三つの殺人事件で死刑宣告も受けたことがある(大統領恩赦で免れる)という過去をもつ曰くつきの人物だが、映画ファンにとっては『冒険者たち』の原作者(小説『生き残った者の掟』)として忘れがたい作家・脚本家・映画監督。余談だが、高倉健さんも『ベラクルスの男』のファンで、「『ゴルゴ13』を演じるにあたって本作のヴァンチュラの演技を参考にした」、と語っていた。 原作はジョン・カリックの『禿タカ』。1938年、独裁政権打倒のため反政府軍に雇われて中南米ベラクルスに渡ったフランスの殺し屋「禿タカ」。クーデター当日、独裁者を一発の銃弾で暗殺するが、事情を知りすぎた彼は依頼主から狙われる……という物語。敵陣での狙撃シーンから、一転して追われる身になったスナイパーの脱出行がキレのいいヴァンチュラの演技によって最高のクライマックス・シーンになっている。数ある「スナイパー映画」のなかでも屈指の名作だ。 ヴァンチュラといえば、『現金(げんなま)に手を出すな』『帰ってきたギャング』『シシリアン』『ギャング』など、まさにフィルム・ノワールの体現者であり、フランス映画界の名優中の名優。本映画祭では出演作の『太陽の下の10万ドル』『墓場なき野郎ども』(ジョヴァンニの原作・脚本)も上映されるので、久しぶりにヴァンチュラとフレンチ・ノワールの世界に浸ってみたい。

24/4/2(火)

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