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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

プリシラ

プリシラ・プレスリーという人物を紹介する時、真っ先に来る言葉は「エルヴィス・プレスリーの元妻」だろう。彼女の人生は、14歳の時、10歳年上のスーパースターと出会ったことにより思いがけない方向に転がった。「いつか王子様が」と夢見るよりも先に、「キング」が自分を見初め、自分のお城=グレースランドへと招き入れたのだから。いまやありえないという意味でも、おとぎ話じみた実話。それを、プリシラが後年、出版した回想録に基づいて描いたのが本作で、監督はソフィア・コッポラ。夢のような世界とその裂け目を描かせたら、やっぱりうまい。舞台となる時代の空気を眼福の衣装や美術とともに活写する一方で、その中で生きる人間の心模様を浮かび上がらせる手腕、ますます冴えている。 エルヴィスの王国に飛び込んだプリシラのファッションや化粧の変化は、観客を楽しませると同時に、どこか落ち着かない気分にさせる。勇敢な小さな女の子が、男の顔色をうかがう小さな女になっていくような感じといおうか。グレースランドでの物語は、実は今も多くの人が入り込んでしまう隘路をめぐる物語でもある。ただ、プリシラはそこを抜け出す。ふわふわとした絨毯に足を取られず歩いていく。独立を実現させるくだりの描写は少々性急だが、現実なんてそんなものかもしれない。夢を見て、現実を見て、その後も豪勢に生き延びてきたプリシラの人生は、エルヴィスとの出会いがなければまったく違ったものになっただろうが、この映画を見ると、「元妻」以外の呼び方がないものかとも思う。

24/3/29(金)

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